大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)954号 判決

控訴人は、原判決を取消す、本件を東京地方裁判所へ差戻す、との判決を求め、その請求趣旨及び原因として陳述するところは、本件訴の利益は、控訴人勝訴の判決によつて、控訴人が教育勅語の伝導をするについての障碍を除却することができる点にあると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

よつてまず控訴人の請求が裁判所の裁判権に服する事項であるかどうかについて判断するに、日本国憲法第三十二条、第七十六条にもとずいて制定された裁判所法第三条によれば、裁判所は日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するものであるが、そのいわゆる法律上の争訟とは法律の適用によつて解決されうべき当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争をいうのであつて、法律の適用によつて是非を定めることができる法律問題でない道義的若しくは政治的問題は勿論、法律問題であつても具体的な権利義務ないし法律関係の確定を必要としない争、例えば単に抽象的な法令等の効力ないし解釈のみについての争は、法律上の争訟とはいいえないから、裁判所の裁判権に服しない事項である。裁判所のいわゆる違憲審査権も右の法律上の争訟の解決に必要な限度において行使できるにすぎないのであつて、このことは三権分立の制度や司法機能からみて当然のことである、本件にあつては、控訴人はまず教育勅語が日本国憲法の条項に反し排除せらるべき詔勅に該当しないことの確認を求め、その理由として主張するところは要するに、被控訴人において教育勅語が憲法に違反し失効していることを確認する旨の決議をしたがこの決議は憲法の解釈を誤つたものであつて、控訴人はこの決議によつて基本的人権を侵害せられ、精神上の苦痛を被つたのみならず、教育勅語の伝導に支障を来たしたというにすぎず、これらはいずれも控訴人の具体的な権利義務ないし法律関係の確定の主張を含むものではなく、結局単に教育勅語が憲法に違反するか否かの解釈上の判断を求めるにすぎないのであるから、前示法律上の争訟に該当せず、したがつて裁判所の権限に属する事項ではないのである。

次に控訴人が被控訴人に対しその教育勅語等失効確認決議の取消決議及び陳謝決議をなすべき旨を求める請求について判断するに、被控訴人が前記決議取消の決議や国民若しくは天皇に対し陳謝の決議をすべきかどうかは、専ら道義的ないし政治的見地よりして被控訴人国会ないしこれを構成する各院が自ら決すべき問題であつて、法律問題でないのみならず、かかる積極的な行為を司法機関たる裁判所が立法機関たる国会に対し命ずることができないことは三権分立の制度からして明かであつて、この請求の当否の判断もまた裁判所の権限外に属するものである。

以上のとおり、控訴人の本訴請求は、いずれも、被控訴人の当事者能力その他の点について判断するまでもなく、前示の点において不適法であつて、その欠缺はこれを補正することを得ないものであるから、本件訴は却下されるべきであり、右と同趣旨に出た原判決は正当である。

よつて民事訴訟第三百八十四条、第九十五条、第八十九条によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川昌勝 浜田宗四郎 菅野次郎)

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